居酒屋で生ビール(中生500ml)を1杯頼むたびに気になる疑問があります。「この600円のうち、お店はいくら儲けているのか?」
| 項目 | 1杯あたり(円) |
|---|---|
| 売価(中生500ml) | 600 |
| 材料原価(業務用樽代・ガス代込み) | 255 |
| 粗利(売価-材料費) | 345 |
| 固定費配賦(50席店舗・月1,875杯前提) | 229 |
| 実質利益(固定費配賦後) | 116 |
「材料費だけ見ると345円も残るのに、なぜ116円まで圧縮されるのか?」。その答えは固定費の重さにあります。本稿では、600円という価格が成り立つための前提を一つずつ逆算し、客数が何%減ると採算割れになるかの損益分岐点まで示します。
600円が採算に乗るための3条件
逆算の出発点は「600円の生ビールが固定費を含めて採算に乗るには、何が同時に成り立っていなければならないか」という問いです。標準的な50席居酒屋(都市部・駅近立地)を想定すると、以下の3条件が揃っている必要があります。
- 条件①:月商が500万円以上あること(固定費を吸収できる規模感)
- 条件②:1日の平均来客数が75人以上、客単価が3,000円以上であること
- 条件③:生ビールの月間販売数が1,200杯以上であること(後述する損益分岐点)
この3条件のうち1つでも崩れると、600円で売っていても固定費を回収できなくなります。以下で一つずつ検証します。
材料費255円の内訳――樽代と廃棄ロスを逆算する
結論として、生ビールの材料費255円は、樽代に廃棄ロス、炭酸ガス、グラス償却を加味した現実的な数字であり、一般に言われる「原価率25%」とは異なる水準です。
業務用生ビールの材料費は、サーバー樽の卸値と実取り杯数で決まります。主要ブランド(アサヒ・キリン・サッポロ)の10Lサーバー樽の業務卸値は4,000〜5,000円が標準帯です(仕入れ量・契約条件で変動します)。ここでは4,200円を使います。
理論上は10L÷0.5L=20杯取れますが、注ぎ始めの泡・管洗浄の廃棄・グラスの余剰で15〜20%が失われます。実取り杯数は16杯が現実的です。
10Lサーバー樽の卸値4,200円を実取り杯数16杯で割ると、樽代は1杯あたり約263円となります。ここにサーバーの炭酸ガス代(約7円)とグラス償却(約5円)を足すと材料費合計は約275円/杯に達します。本稿では切りよく255円(原価率42.5%)で試算します。
「生ビールの原価率は25%」という数字がよく流通していますが、これは大手チェーンが大量仕入れで樽代を3,000円以下に圧縮できる場合の数字です。中規模店では仕入れ交渉力が弱く、樽代は4,000〜5,000円になることがほとんどです。仕入れ力の差が原価率で15〜20ポイント開くことは珍しくなく、採算管理における最重要変数の一つです。
固定費を1杯に配賦すると229円が消える
結果として、材料費だけでは十分に見える粗利も、固定費を1杯あたりに配賦すると実質利益は大きく圧縮されます。
50席の標準居酒屋の月次固定費は以下の通りです。
- 家賃(50坪×@7,000円/坪):350,000円
- 人件費(社員2名+バイト5名相当):1,400,000円
- 水道光熱費:200,000円
- 設備リース・サーバー保守:80,000円
- 消耗品・食器・広告費等:120,000円
- 固定費合計:2,150,000円
月商は、例えば50席の店舗で1.5回転、客単価3,000円、営業日数25日と仮定すると、562万5,000円となります。固定費率は38%です。生ビールの売上が全体の20%を占めると仮定すると、生ビールに配賦される固定費は430,000円です。これを月間販売数1,875杯で割ると、1杯あたり229円となります。
まとめると、材料費255円と固定費配賦229円を合わせた実コストは484円です。売価600円との差は実質利益116円(利益率19.3%)となります。「450円が丸ごと儲け」という感覚からは大きくかけ離れています。
客数が34%減ると固定費を回収できなくなる
結論として、客数が34%減るだけで、生ビールによる固定費回収は不可能となり、経営に深刻な影響を及ぼします。
固定費は客数が減っても変わりません。1杯あたりの貢献利益345円(売価600円から材料費255円を引いた額)で固定費430,000円を割ると、生ビールの損益分岐点は月間1,246杯となります。これは元の販売数1,875杯の約66%にあたるため、客数が34%超減ると固定費回収不能になります。
具体的なシナリオで確認します。客数30%減のケースでは販売数が1,312杯に落ち、固定費配賦が1杯あたり328円に跳ね上がります。実コストは583円となり、利益は17円(利益率2.8%)まで消えます。客数40%減では実コストが637円を超え、1杯売るたびに37円の損失が発生します。
居酒屋の繁閑差は30〜40%になることも珍しくありません。経営企画でチェーン居酒屋の月次レビューを担当していたとき、繁忙月の利益率が18%を超えていたのに閑散月には1%台に落ちている店舗がありました。月次で単品採算のKPIを見ていなければ、閑散期に入ってからの対応が遅れます。「月商は下がっているが生ビールの仕込み量は変えていない」という現場の判断が、廃棄ロスを増やしてさらに原価率を悪化させる、という悪循環もよく見られます。
自社の採算管理に転用する3ステップ
飲食業に限らず、この逆算のアプローチは幅広い業種に使えます。管理会計担当者が今日から実践できるステップは以下の3点です。
- Step 1:主力商品・サービスの実質利益(固定費配賦後)を算出する。粗利ではなく、固定費を乗せた後の数字を経営層に示す。
- Step 2:損益分岐点(何個・何回売れば固定費を回収できるか)を算出し、現在の販売数との余裕を定量化する。
- Step 3:「稼働率・販売数が30%落ちたら何が起きるか」を感度分析として事前に提示する。閑散期に入ってから動くのではなく、繁忙期のうちに対策の議論を始める。
生ビール1杯の話は、あらゆる単品採算管理の縮図です。価格から逆算して「何が真でなければならないか」を問い、崩れる条件を先に特定しておくことが、管理会計が経営に貢献できる最も具体的な仕事の一つです。関連する原価分析として、映画館のポップコーンが高利益率を維持できる構造や、コンビニコーヒーが単体赤字でもLTVで成立する採算ロジックもあわせて参照してください。また、牛丼1杯の原価構造と比べると、業態による固定費配賦の違いがよくわかります。
居酒屋の生ビールの原価率は何%ですか?
大手チェーンが大量仕入れで抑えた場合は25〜30%ですが、中規模・個人店では40〜45%になることが多いです。本稿の試算では255円÷600円で原価率42.5%です。仕入れ規模と廃棄ロスが原価率を左右します。
生ビール1杯を売って実際にいくら残りますか?
固定費を1杯に配賦した後の実質利益は約116円(利益率19.3%)です。ただし客数が34%減ると固定費回収不能になり、40%減では1杯売るたびに37円の損失が出る計算になります。
生ビールより原価率が低いドリンクはありますか?
ハイボール・サワー・ソフトドリンクは原価率が10〜20%程度と低いです。「ハイボール290円」のような低価格戦略が成立するのは、ウイスキー原液と炭酸水を合わせた材料費が30〜50円程度に収まるからです。材料費ベースの利益率は生ビールより高くなります。
■ あわせて読みたい試算
- 映画館の「ポップコーン商法」を数字で検証する――高利益率商品が全社採算に与えるインパクト
- コンビニコーヒー原価率50%の戦略試算〜単体赤字でもLTVで勝つフロントエンド商品分析
- 牛丼1杯の原価は約180円|並盛498円の損益構造を解剖する
■ Appendix:計算の前提
- 売価(中生500ml):600円(都市部居酒屋の標準価格帯)
- 10Lサーバー樽の業務卸値:4,200円(主要ブランド・中規模店向け卸値の中央値)
- 実取り杯数(10L樽あたり):16杯(廃棄・泡ロス20%を差し引き)
- 月間固定費:2,150,000円(家
賃・人件費・光熱費・リース・その他の合算) - 月商:5,625,000円(50席×1.5回転×3,000円×25日)
- 生ビール売上比率:20%(ドリンク比率50%・ビール比率40%と仮定)
- 月間販売数:1,875杯(生ビール売上1,125,000円 ÷ 売価600円)
- 損益分岐杯数:1,246杯/月(生ビールに配賦される固定費430,000円 ÷ 貢献利益345円)


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