0.3ポイント。売上高30億円・電力費が売上高比3%の製造業が、電気代10%増に直面したときの営業利益率の悪化幅だ。数字だけ見れば小さく思えるが、営業利益率7%の会社が6.7%に落ちれば減益率は4.3%になる。電力費比率が高い工場ではこの数字はさらに膨らむ。政府の電気・ガス料金支援は2026年9月使用分(10月検針分)での終了が濃厚であり(エネチェンジ・セレクトラ調べ)、来年度予算の電力費欄をまだ「現状維持」で置いている担当者は今すぐ見直しが必要だ。
FP&A担当として何を試算するか
自分がこの会社のFP&A担当であれば、最初にやることは「電力費の感応度マップ」を作ることだ。試算を動かす変数は3つある。
- ①電力費の売上高比率:小売や食品加工なら1〜2%、一般製造業で2〜4%、アルミ・製紙・化学など電力多消費産業では5〜10%に達する。この比率が感応度の分母を決める。
- ②電力費の変動費・固定費比率:基本料金(デマンド料金)は固定費として、従量料金は変動費として扱う。売上が減っても基本料金は減らない。電力費の固定費比率は一般に20〜30%程度。
- ③コスト転嫁の可否:電力費上昇分を製品価格に転嫁できるか。転嫁できなければ全額が利益を削る。転嫁できれば売上も増えるため利益率への影響は軽減される。
この3変数を確認するだけで、自社の試算の「急所」がどこにあるかが見えてくる。
補助金終了後の3シナリオ試算
モデル企業を「売上高30億円・営業利益率7%・電力費9,000万円/年(売上高比3%)」の製造業中堅に設定します。電力費の内訳は従量料金が70%(6,300万円)、基本料金・その他が30%(2,700万円)です。現状約250万円/年の補助金恩恵を受けていると仮定した場合、以下の3シナリオが考えられます。
- A(保守シナリオ:補助金終了のみ)
- 電力費は2.8%上昇し、年間追加コストは250万円となります。
- これは営業利益を250万円(1.2%)減少させ、営業利益率は7.00%から6.92%へ0.08ポイント悪化します。
- B(標準シナリオ:補助金終了+燃調上昇)
- 電力費は10%上昇し、年間追加コストは900万円となります。
- これは営業利益を900万円(4.3%)減少させ、営業利益率は7.00%から6.70%へ0.30ポイント悪化します。
- C(強気/悲観シナリオ:補助金終了+燃調+再エネ賦課金増)
- 電力費は20%上昇し、年間追加コストは1,800万円となります。
- これは営業利益を1,800万円(8.6%)減少させ、営業利益率は7.00%から6.40%へ0.60ポイント悪化します。
なお再エネ賦課金は2026年度に4.18円/kWhまで上昇しており(エネチェンジ調べ)、今後も増加傾向が続く見通しだ。月30万kWhを使う工場なら賦課金だけで月125万円(年1,500万円)のコストになっている。この水準自体を会社が把握していないケースが実は多い。
電力費の売上比率が1%違うと感応度は2倍になる
モデル企業(電力費比率3%)で試算した△0.30ptという数字は、あくまで「比率3%の場合」だ。電力費比率が変われば感応度はそのまま比例する。
- 電力費比率1%の会社(卸売・情報サービス等):10%増 → 利益率△0.10pt
- 電力費比率3%の会社(一般製造業):10%増 → 利益率△0.30pt
- 電力費比率6%の会社(化学・金属等):10%増 → 利益率△0.60pt
- 電力費比率10%の会社(アルミ精錬・製紙等):10%増 → 利益率△1.00pt
コスト転嫁ができない場合は上記の数値がそのまま利益率の悪化幅になる。転嫁率が50%なら悪化幅は半減する。この「転嫁率」を早めに定量化しておくことが、次の経営会議での議論の質を決める。コスト転嫁率の計算方法はこちらの記事で詳述している。
実務での経験を正直に言うと、工場の電力費を「電気代」として一括りにしている会社が多い。実際には基本料金(固定費)・従量料金(変動費)・再エネ賦課金(固定費的)という3層構造になっており、どの層が上昇しているかで対策が変わる。基本料金が上がっているなら節電しても効果は薄く、デマンド契約の見直しが先だ。この「どの層か」を聞いてもすぐに答えられる担当者は、工場部門でも少ない。
経営会議に出す判断:電力費比率3%超の工場は今期中に対策を
試算の結果、最も結果を動かす変数は「電力費の売上高比率」だ。この比率が3%を超える工場は、シナリオBだけで営業利益を0.3pt以上削られる。年度中途で電力費が想定外に膨らんだ場合の予算修正幅も試算しておく必要がある。
経営会議への結論として整理するなら、以下の1枚になる。
- 今期やること:電力費の実費を基本料金・従量・再エネ賦課金の3層に分解し、売上高比率を確定する
- 来期予算の前提:補助金終了(+2.8%)を最低ラインとして設定。標準シナリオは+10%で試算する
- 転嫁シミュレーション:電力費上昇分を製品価格に転嫁できる場合とできない場合の利益率差分を営業部門と共有する
- モニタリング指標:電力費/売上高比率を月次で追い、3%超が2ヶ月続いたら即アラートを上げる
自社で何をモニタリングすべきかという問いへの答えは、まず現状の電力費比率を計算することから始まる。この数字を持たずに「電気代が心配」という会話を経営会議でしていても、議論は永遠に終わらない。
電気代が上がると製造原価はどのくらい増えますか?
電力費が売上高の3%の製造業では、電気代10%増で製造原価は0.3%上昇する。ただし電力多消費産業(アルミ・製紙・化学)では電力費比率が売上高の5〜10%に達するため、同じ10%増でも製造原価への影響は0.5〜1.0%になる。
電気代補助金はいつ終わりますか?
政府の電気・ガス料金支援は2026年9月使用分(10月検針分)での終了が濃厚。経済産業省は10月以降の継続は現時点では未定としており、企業は補助なしの電力費を前提に来年度予算を組む必要がある。
電力費の上昇分を価格転嫁するにはどうすればいいですか?
原材料費・エネルギー費の価格転嫁は、取引先との価格交渉において「コスト増加額の根拠」を数値で示せるかどうかが鍵になる。電力費の3層分解(基本料金・従量料金・再エネ賦課金)ごとに増加額を明示し、「製品1単位あたり何円のコスト増」に換算して交渉資料を作ることが第一歩だ。
■ Appendix:計算の前提
- モデル企業売上高: 30億円
- 営業利益率(現状): 7.0%(営業利益2.1億円)
- 電力費(年間): 9,000万円(売上高比3.0%)
- 電力費内訳: 従量料金70%・基本料金等30%
- 現状の電力補助金恩恵: 約250万円/年
- 再エネ賦課金(2026年度): 4.18円/kWh(出所:エネチェンジ)
- シナリオBの電力費上昇率: +10%(補助終了+燃調上昇の複合)
- シナリオCの電力費上昇率: +20%(補助終了+燃調+再エネ賦課金増)
- 転嫁率の仮定: 0%(全額利益が吸収)


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