スターバックスのTallラテ1杯の材料費は約80円、原価率は約14%だ。にもかかわらず、スターバックスコーヒージャパンの営業利益率は7.6%にとどまる。590円で売れているのに利益が薄い理由は、コーヒー豆でもミルクでもなく、「人・家賃・オペレーション」の三重構造にある。
| 項目 | 金額・比率 |
|---|---|
| Tallラテ販売価格(税込) | 590円 |
| 材料費(豆+ミルク+容器) | 約80円 |
| 原価率(ラテ単体) | 約14% |
| 全社売上原価率(飲料+フード合計) | 約28% |
| 全社営業利益率(スタバジャパン2024年9月期) | 約7.6% |
「原価率14%なら儲けすぎでは?」という感想は正しいようで正しくない。残り78%超のコストが、人と場所と組織に分散して消えていく。その構造をKPIツリーで可視化すると、スタバの損益管理の本質が見えてくる。
なぜ590円のラテで営業利益が7%台しか残らないのか
結局、スターバックスが高いコーヒーの粗利を維持しながらも営業利益が薄いのは、人件費、家賃、および運営コストという労働集約型のビジネス構造が主な要因です。スターバックスコーヒージャパンの2024年9月期決算では、売上3,251億円に対して営業利益は247億円(7.6%)にとどまっています。これは材料費(原価率28%)に加え、人件費(約27%)・家賃(約11%)・減価償却・本社管理費(合計約26%)が重なるためです。コーヒー1杯の粗利は大きくても、こうした運営コストが利益を圧縮する構造は避けられません。
また、全社原価率(約28%)がラテ単体(14%)の倍
になっているのは、フード商品(サンドイッチ・スコーン等)の原価率が50%超であるためだ。フードアタッチ率(ドリンクにフードをあわせて購入する割合)が上がるほど全社原価率が押し上げられる。これが「飲料専業で見ると儲かる、フードを込みにすると薄利」という構造の正体だ。
ラテ1杯の原価80円から始まるKPIツリー
分析の出発点となるのは「客単価」と「フード原価」の二つのノードです。ドリンク単体の原価率(14%)を低く保ちながら、高単価なフラペチーノや季節限定商品で客単価を引き上げることが利益改善の主戦場となります。逆にフードアタッチ率が上がりすぎると全社原価率が悪化するため、商品ミックス管理が損益に直結します。
- 営業利益(7.6%)
- 売上総利益(粗利)
- 売上(客単価 × 来客数 × 店舗数)
- 【直撃ノード】客単価(ラテ590円〜 + フードアタッチ平均+100〜150円)
- 来客数(1店舗あたり推定1日350〜450客)
- 店舗数(国内2,161店・2024年9月末)
- 売上原価(F: フード+ドリンク原材料+容器 ≒ 28%)
- 飲料原材料(コーヒー豆・ミルク・シロップ):ラテ1杯約80円
- 【直撃ノード】フード商品原価(原価率50%超・全社原価率を引き上げる)
- 容器・包材(カップ・蓋・スリーブ等)
- 売上(客単価 × 来客数 × 店舗数)
- 販管費
- 人件費(L: Labor ≒ 27%)
- 賃料(R: Rent ≒ 11%)
- 減価償却(≒ 3%)
- 本社管理費・その他(≒ 23%)
- 売上総利益(粗利)
ミルク価格が10%高騰すると全社利益はいくら減るか
ミルク価格のわずかな上昇が、スターバックスの全社営業利益に重大な影響を与えるため、価格改定が不可欠です。2026年も飼料価格上昇を背景に国内乳価が高止まりしており、ミルクコストの変動は無視できないリスクです。例えばミルク代(現在約40円/Tall)が10%・20%上昇した場合のインパクトを試算します。
- ベースライン: 1杯あたりミルク代40円、原価合計80円、ラテ単体原価率13.6%。
- ミルク10%上昇シナリオ: 1杯あたりミルク代が44円、原価合計84円に。ラテ単体原価率は14.2%となり、年間コストは約12.8億円増加します。
- ミルク20%上昇シナリオ: 1杯あたりミルク代が48円、原価合計88円に。ラテ単体原価率は14.9%となり、年間コストは約25.6億円増加します。
年間ドリンク販売数を、売上3,251億円を平均客単価700円とドリンク購買比率70%で割り戻し、約3.2億杯と推計します。ミルク代が1杯あたり4円(10%)上昇すると、年間のミルクコスト増は約12.8億円となり、全社営業利益(247億円)の約5%に相当します。スタバが毎年価格改定を検討するのは、この原価感度を熟知しているからです。食肉価格の高騰が飲食業のFLコストを直撃している現状を踏まえると、乳製品コストもあわせた原材料感度分析が急務です。
FLコスト55%から学ぶ自社管理会計の3つのアクション
スタバのFLコスト(F28%+L27%=55%)は、飲食・サービス業のベンチマークとして有用だ。自社管理会計に引き取る観点で3点を提示する。
- ①FLコストを週次でモニタリングする:FLコストが55%を超えると利益圧迫の黄信号、58%超で赤信号と定義し、日商×スタッフ投入時間から逆算するFLレポートを週次で作成する。月次PL確認では手遅れになるケースが多い。コンビニコーヒーの採算構造と比較すると、労働集約度の違いが際立ち、自社のFLコスト適正水準を判断する参考になる。
- ②来客数弾力性を定量化する:価格を10%引き上げたとき、来客数がどれだけ減るかを過去データから推計する。スタバのようにブランドロイヤルティが高い業態は価格弾力性が低く、値上げ効果が大きい。弾力性の数値を持たずに価格改定を議論するのは、FP&Aとして機能不全だ。
- ③賃料を「1客あたり負担額」で評価する:「月賃料200万円は高い」ではなく、「1客あたり賃料負担=月賃料÷月来客数」で判断する。銀座・渋谷の高賃料立地でも、日商が十分なら投資として正当化できる。映画館がポップコーンで全体採算を補完するロジックと同様に、立地コストと付帯収益の相関を把握することが管理会計の本質だ。
バリスタが1日400杯を作る先に、数字が届かない現実がある
スターバックスの高い価格設定を支える本質は、単なる数値分析だけでは見えない、現場バリスタによる圧倒的な労働の密度と顧客体験の提供にあります。KPIツリーを組んでFLコスト55%と書くのは容易ですが、現場のバリスタは、ラッシュアワーに400杯超のオーダーをさばきながら常連客の顔を覚え、複雑なカスタマイズに対応し、クレームを笑顔で受け止めています。この労働の密度こそが、スタバが「高い値段を取れる理由」です。人件費率を削るために人員を減らせば、ブランドロイヤルティに支えられた価格弾力性の低さという最大の武器を失うリスクがあります。数字は、時にこのデリケートな臨界点を教えてくれません。
よくある質問
スターバックスのコーヒー1杯の原価はいくら?
Tallラテ1杯の材料費は約80円(コーヒー豆20円・ミルク40円・カップ・蓋・スリーブ等20円)で、原価率は約14%です。ただし全社の売上原価率は約28%で、フード商品(サンドイッチ・スコーン等、原価率50%超)との加重平均の結果です。
スタバの営業利益率はなぜ10%以下なのか?
材料費(約28%)に加えて人件費(約27%)・家賃(約11%)・管理費等(約26%)が重なり、合計で約92%超がコストとなるためです。コーヒー1杯の粗利は86%超でも、店舗運営コストがほぼ吸収してしまいます。
フラペチーノはラテより原価率が高いのか?
はい。フラペチーノ(Tall約780円)の材料費は約150〜200円で原価率は20〜25%とラテより高め。ただし販売単価が高いため1杯あたりの絶対粗利額は580〜630円程度とラテ(510円)を上回り、客単価の引き上げに貢献します。
■ Appendix:計算の前提
- Tallラテ販売価格(税込): 590円 (スタバジャパン公式・2024年改定後)
- エスプレッソ豆(1ダブルショット=約14g): 約20円 (業務用コーヒー豆卸値・大量仕入れ推計)
- ミルク(Tall=約230ml): 約40円 (業務用牛乳相場(@175円/L))
- カップ・蓋・スリーブ等: 約20円 (業界標準包材コスト推計)
- 材料費合計(ラテ1杯): 約80円 (上記積み上げ)
- スタバジャパン売上: 3,251億円 (スタバジャパン有価証券報告書(2024年9月期))
- 売上原価率(F): 28.3% (スタバジャパン2014年3月期(現在も類似水準と推定)・食スタジアム)
- 人件費率(L): 約27% (同上)
- 家賃比率(R): 約11% (同上)
- 営業利益: 247億円(7.6%) (スタバジャパン2024年9月期)
- 年間ドリンク販売数(推計): 約3.2億杯 (売上3,251億円を平均客単価700円とドリンク購買比率70%で割り戻し、試算)


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