なぜ今この話なのか
「で、結局これって採�取れるの?」と聞かれそうですが、実際のところ回転寿司の値上げは損益面では理にかなった判断でした。
スシローとくら寿司が2022年10月から値上げを実施し、1皿税抜100円の商品がなくなりました。現在、100円を維持するのははま寿司とかっぱ寿司だけとなっています。10皿食べた場合の総額は、100円皿時代の1100円から2024年には1260円~1320円に上昇し、約1.15倍になっています。
この値上げ、単純に材料費高騰への対応と見られがちですが、FP&A視点で見ると「プライシング戦略による収益構造改革」の側面が大きいんです。
何が起きたかをデータで整理
値上げを公表した88ブランドのうち、9割近い75ブランドが「原材料」の高騰を理由に挙げており、回転すし店では急激な円安による輸入魚介類の価格上昇に加え、品薄を理由にした値上げが実施されています。
具体的な値上げ幅を見ると、スシローは税込価格で現行110円の皿を120円、165円を180円、330円を360円に変更。くら寿司は110円の皿を115円に値上げする一方、220円の皿を165円に値下げしました。
業績への影響は明暗が分かれています。スシローが引き続き客数売上で好調に推移している一方で、かっぱ寿司は売上客数の前年割れが継続。くら寿司は客単価の押し上げにより既存店売上達成となりました。
原価率50%の「異常な」収益構造とコスト分析
回転寿司のコスト構造は他の飲食業態と比べて異質です。スシローの原価率は約50%で、平均15~30%前後である飲食業界全体と比べると異常に高く、コストの構造は原価率50%、人件費25%で、すでに75%の費用が決まっています。
この構造は実は経営上の強みでもあります。原価率50%のバランスを保てれば、売上が8割になっても損失はそこまで出ず、原価率を下げるのではなく、原価率を上げても品質の良い食材を使い、多くの顧客に来店してもらい、顧客の回転率を上げることで売上高を引き上げています。
人件費の安さと廃棄率の低さが大きな理由で、ハイブリッドレーンと呼ばれるシステムにより無駄になるすしを減らせるうえ、席まで運ぶホールスタッフの人員も削減できています。予算規模で考えると、スシローの1店舗あたりの年間売上高は3億円超と他社を圧倒しており、これは外食産業全体で見ても驚異的な数字です。
値上げインパクトの損益分岐点シミュレーション
では実際に値上げが損益分岐点に与える影響を試算してみます。仮に標準的な回転寿司店の月次損益を以下と仮定します。
売上1000万円(客数5万人×客単価200円)、原価500万円(原価率50%)、人件費250万円(人件費率25%)、その他経費150万円、営業利益100万円(営業利益率10%)とします。
値上げで客単価が10%上昇(200円→220円)した場合を想定。客数が10%減少(5万人→4.5万人)すれば、売上は990万円(4.5万人×220円)となり、ほぼ現状維持です。しかし原価は変動費的性格から売上連動で495万円に減少、人件費は固定費的性格から250万円で変わらず、その他経費も150万円で一定とすると、営業利益は95万円となります。
もし客数減少が5%に留まれば(5万人→4.75万人)、売上は1045万円、原価は522万円、営業利益は173万円と大幅改善します。つまり客数減少率が客単価上昇率の半分以下なら、値上げは収益改善に寄与するわけです。
実際のデータを見ると、くら寿司の既存店では客数95.4%、客単価101.4%で売上高96.7%となっており、値上げ効果が客数減少を相殺しきれていない状況が見て取れます。
経営企画・FP&A担当者が明日使えること
・値上げの損益分岐点は「客数減少率<客単価上昇率×(1-変動費率)」で判断。回転寿司の場合、変動費率50%なので、客単価10%上昇なら客数減少は5%以内に抑える必要あり
・高原価率業態では値上げによる限界利益率改善効果が小さいため、客数維持がより重要。プライシング戦略では需要の価格弾力性を慎重に分析すべき
・競合他社の値上げタイミングを見極め、業界全体での価格水準引き上げ時に追随することで、自社単独での客数減少リスクを軽減できる

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