初任給30万円超え時代、経営企画は何を試算すべきか?
このところ各社の「初任給引き上げ」ニュースが相次いでいますね。大学卒の初任給水準は25万5115円で前年度から6.3%上昇した2025年度に続き、2026年度も上昇基調が続いています。で、結局これって採算取れるの?という話を今回は数字で見てみましょう。
特に2026年卒の学卒生初任給は平均225,786円で前年比8,999円増加しており、上場企業では14,256円の増加と二桁万円の上昇が続いています。人材争奪戦が激しくなる中、コスト増をどう回収するかが経営企画・FP&A担当者の腕の見せ所です。
何が起きているか:初任給上昇の実態
データで見ると初任給上昇の勢いがよく分かります。2025年度の初任給を前年度から「全学歴引き上げ」た企業は83.2%と8割超で、引き上げた場合の平均上昇額は1万8220円となっています。
特に目立つのが金融・商社系です。伊藤忠商事は大学卒総合職の初任給を32万5,000円に2万円引き上げ、丸紅は33万円に2万5,000円引き上げで大手商社最高水準を実現しました。一方で企業の71.0%が初任給を引き上げるものの、平均引き上げ額は9,114円と、大手と中小で二極化が進んでいます。
背景には人材を確保するため(81.8%)が最多で、在籍者のベースアップがあったため(37.4%)が続く状況があります。つまり新卒だけでなく既存社員の処遇改善も同時に進んでいるということです。
FP&A視点の論点:人件費増をどう吸収するか
ここからが本題です。初任給を年30万円上げれば年間人件費は360万円増。新卒10名なら3600万円のコスト増となります。これを売上や利益でどう回収するかが経営判断の分岐点です。
人件費率の視点から見ると、一般的には売上高に対し13%前後が平均値で、売上総利益に対しては50%以下が適正とされています。ただし情報通信業や宿泊業・飲食サービス業などの労働集約型業種ほど高い傾向があり、業界特性を考慮する必要があります。
重要なのは労働生産性です。労働生産性は従業員一人当たりの営業利益を測定する指標で、計算式は「営業利益÷従業員数」、全業種の中央値は2,311,822円となっています。つまり新卒一人が年間約231万円の営業利益を生み出せば業界平均レベルということです。
初任給30万円アップなら、これまでより年間130万円多く営業利益を稼ぐ必要があります。予算規模で考えると、営業利益率が10%の企業なら売上を1300万円増やす計算です。
数字で読む試算:生産性向上のシナリオ
具体的に試算してみましょう。仮に製造業で新卒10名の初任給を25万円から30万円に引き上げる場合を想定します。
年間コスト増は5万円×12ヶ月×10名=600万円です。製造業の人件費対売上高比率は約29.4%が目安なので、売上高約2040万円分の人件費増加に相当します。
この600万円を回収する方法は大きく3つのシナリオが考えられます。第一に売上拡大シナリオでは、営業利益率5%の企業なら1億2000万円の売上増が必要です。第二に業務効率化シナリオでは、IT投資やプロセス改善で一人当たり生産性を年60万円向上させれば達成できます。第三に価格転嫁シナリオでは、既存商品・サービスの価格を3-5%程度引き上げることで吸収可能です。
現実的には複合アプローチが有効でしょう。売上2%増、効率化で一人当たり生産性20万円向上、価格1%アップの組み合わせで目標達成できます。
実務インプリケーション:明日から使える改善策
• 労働生産性指標の月次モニタリング体制構築:従業員一人当たり営業利益を部門別・職階別に算出し、初任給アップの効果測定と改善ポイントを可視化する
• 人件費ROI計算の導入:新卒採用・初任給投資に対する売上・利益創出効果を定量評価し、採用戦略の費用対効果を経営陣に報告する仕組みを整備する
• 段階的生産性向上計画の策定:IT投資・業務自動化・スキルアップ研修などの具体的施策と投資額、期待効果を3年スパンで計画し、初任給上昇を持続可能にする道筋を描く

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